恨みごと (ウラミゴト)



オレを怨む?サスケ……

怨めたら、どんなにいいか、な……


いつも勝ち気な光りを放つ碧の瞳から水がぽろぽろと流れている。

オレはこいつにこんな顔ばかりさせているな……

昔はこんな顔、させてなかったのに。
それは遠い過去で、今更この道を選んだことなど別に後悔などしていない。

オレの生きる道とお前の生きる道はあの谷で違えたんだ。
なのにお前はずっとオレの後を追い掛けて、ついにはオレに追い付いてしまった。
ナルト、お前は無知で、無垢で、愚かで、子どものままだ。
お前を見てると、昔の自分を思いだす。愚かな、子どもだった。

泣くことしかできなかった。
強くなろうともがいて、今に至ったが、結局自分は弱いままだった。

何が違うんだろな。

濡れた頬に手を伸ばそうとしたが、指が震えて終わった。もう大分感覚がない。

それに気付いたナルトがオレの手をとり、望んだ通りにアイツの頬に運んだ。

話さなくても通じる。
昔感じた絆を確かに今も存在すると感じるのだから不思議だ。
たくさんのものを失い、壊して捨ててきたのに、変わらないものがあるなんて本当に可笑しなことだ。

濡れた頬は温かく、柔らかく、その優しさに目頭が熱くなる。
こんな甘やかなものなどいらないのに。

どうしてコイツはオレに追い付いた。
なぜオレはいつまでも兄貴に追い付かない。

それも、もうすぐ考える必要のないものになると思うとやる瀬なさが募る。

混濁してきた視界に映るのはぼやけた白い天井と碧の瞳と金の髪。

諦めも覚悟もない自分に着実に忍び寄る眠り。
次に起きた自分はどんな人生をおくるのだろうか。

確実に消されるであろう今の人格という自分。
今の人格を消されることは、自分にとっては死ぬことと大差ない。
霞む視界、鈍る感覚。

サスケ、サスケェ……

聞こえるナルトの泣き声と温かい水滴が最期の子守りうた。

もう、本当に。
ウスラトンカチ、いっそうお前を怨むことができたら、どれだけ安らかにこの眠りにつけただろうか。



06/11/06