続・月夜の公園 オレはいったい何をしているんだ…… 端正な眉をよせて、夜風に乱れる髪を整えながら、うちはサスケは自分の白い息を眺めていた。 最近は急速に日暮れが早まり、それに比例して気温も低くなっていった。現在時刻は午後九時をまわっている。かなり寒い。 一ヶ月前の自分なら、こんなくそ寒い季節の、しかも夜中に、毎日外に出ることなんて考えもしなかっただろう。 今から二週間前、サスケはフラれたショックで今まで一度も来たことのないこの公園にやってきたのだった。 雨が降る中酒でクラクラする頭を抱えてやってきた公園で出会ったのは、一人の青年。 初め見た時は月の化身かと思うほど神秘的だった。 まぁ、しゃべったらその印象は見事に粉々に砕かれたわけなのだが…… 「あれでオレと同い年なんだから笑えるよな。絶対三歳は年下だと思ってたのに」 表情のコロコロ変わる顔、好奇心で輝く蒼い瞳、性格を体言したように跳ねる金の髪。 この間年齢の話しになった時のことを思い出して、サスケは零れそうになる笑みを口を引き結ぶことでなんとかこらえた。 あからさまにナルトの年齢に驚くサスケを見て、ナルトはふて腐れていた。頬を膨らまし、そっぽを向く姿は子どものそれで、同い年の男なのにナルトを素直に可愛いと思った。 何考えてるんだ、オレ。 可愛いなんて単語を同年代の男に使う日がくるなんて。 「…………さみぃ」 自分の考えに居心地が悪くなってサスケは無難なことを口にしてみるが、さらに居心地が悪くなった気がする。 ふと視線を感じて焦って隣を見ると、お馴染みの馬の遊具と視線がかち合った。 「なんだよ、お前……」 サスケはふて腐れながら問う。八つ当たりというやつだ。 「どうせお前、そんなに寒いの嫌なら来るなとか思ってんだろ」 それは最もなことだ。 わかっている。 来るか来ないかわからない相手をこんな夜中の公園で待っているなんて自分でも馬鹿だと思ってるさ。 しかも相手は同性で、とくに親しい長年の友とかいうやつでもない。 約束もしていない、友達というほど親しくもない、けれど気になってしまう相手。 おい、馬!!お前オレに早くこの場を離れてほしいなら、ナルトの一人や二人軽くだせ!!! 無言の威圧を二十歳もきた男が公園の遊具に浴びせている。異様な光景。 「はぁぁぁ、何やってんだオレ」 全くその通りだ。 「何やってんの、サスケ」 「ナルっ…………?」 サスケの横にちょこん、と可愛らしい生首が出現した。 いくら出せって言っても生首はねぇだろー!! 馬の上に乗ったナルトの生首にサスケは、ひっ、と出そうになった声を飲み込み、冷静に現状を把握する。 「サスケ、今日もやっぱり来たんだー!」 ナルトだ。ほんものナルトだ。 ナルト(生首)は、にっと歯を見せて笑った。 どうやら唯単にナルトは馬の遊具の向こう側から顔を出しているだけらしい。 夜の暗闇と、ナルトが現れる直前に馬の遊具に訴えていたことが、サスケの判断を鈍らせたようだ。 「よぉ、今日もきたのかよ。暇人」 なぜかナルトに会うと口が勝手に憎まれ口ばかり叩いてしまう。 「な!お前だって来てるだろ!!」 「オレは散歩だ。ウスラトンカチ」 「ふ〜ん。散歩で毎日三つ駅越えてくるんだ〜?サスケ君って」 嫌みったらしく君付けにしてくるナルトにサスケはぐうの音もでない。 こういう時は話題を変えるにかぎる。 「そういえば明日は休みだな」 「うん!ちょうど二週間前はオレがサスケをお持ち帰りした日?」 疑問形でとんでもないことを言うナルトにサスケは驚愕して固まる。 「あれ、なんかオレおかしなこと言ったってば?ひょってして反対?オレがお持ち帰りされた日?」 ナルトのきょとん、と小首を傾げて訪ねる様子にサスケは、コイツ言葉の意味わかって言ってねぇと、脱力した。 とりあえず高鳴る鼓動を押さえて、サスケは額に手をあて、正しい言葉の使い方をナルトに教えることにする。 「あのな、それはたいていは女に使うんだよウスラトンカチ」 「え?!そうなの?くそ〜キバのやつオレを騙しやがったな〜!!」 ナルトはよく話題にするクラスメイトの名前を叫んで地団駄を踏んだ。 サスケはそれ以上の意味をつっこまれないようナルトに質問を投げ掛ける。 「で、なんでそんな話になってんだよ」 「へ?あ、うん。本当はサスケのこと皆には秘密にしてたんだけどさ。最近オレ夜はここにきてるからキバ達と遊んでても途中で帰ってて……そしたら今日そのことで問い詰められたんだってば。んで二週間前のことキバに話したら、よく初対面のやつ家に入れたなーってなって……」 「わかった……大体予想はついた」 下世話な心配をするナルトの友人達を殴り倒しにいきたいと思う衝動をなんとか押さえて、サスケはナルトを見遣る。毎週この曜日は(といっても今回でまだ二度目だが)やらなければならないことがあるのだ。 「今日は何が食べたい?」 先週と同じ言葉を口にして、サスケはにやりと笑った。 ナルトはその言葉の裏に隠された意味をちゃんと理解して、すっかり寒さで赤くなった頬を膨らませる。 「む、いつ家に泊まっていいって言ったってば?」 「ふん。ウスラトンカチでもちゃんと理解できるんだな」 「なにィ!!」 「あ、今日は小豆もってきてやったぞ。この間好きって言ってただろ?ゼンザイ作ってやる」 「えっ?マジで〜?やったー!!」 目に今にもハート型が浮かびあがりそうなナルトが腕に纏わり付いてくる。 やっぱ動物は餌付けに限るよな。 先週はたまたま金曜日にナルトにご飯を作ることになり、そしてそのまま自然にナルトの家に泊まったのだった。次の日は休みだから、ナルトに用事がなく、また断られない限りは一晩中ナルトと一緒にいることができる。 「で、行っていいのかよ。家」 「ちぇっ、しょーがねぇな〜。明日は用事ないし泊めてやるってばよ。そのかわりゼンザイちゃんと作れってばよ」 唇を尖らせながら言うナルトの言葉によって交渉は成立。 今日煮ろよな、一晩おいて明日食うんだ〜、と鼻唄まじりで言うナルトにサスケは腕を引っ張られながらだいぶん慣れた夜道を歩いた。 07/12/19 現代パラレル・大学生話でした! |