ビュ シ ー


夕闇に紛れて騒がしい気配がする。

「んっ……?」
「やーーっと起きたかってばよ〜〜ぅ!」

早く手の力抜いてくれっ、お願い!と続けられた言葉にカッと頭が熱くなって腕に更に力が入った。よりにもよって自分は熟睡していたらしい。

信じらんねぇ。
得体の知れない男を家に上げてる上に熟睡……?

サスケは自分の神経を疑った。

「うぎーー……あ。も、むり……」

男があからさまに不抜けた声をあげるのと同時に身体に男の体重がかかる。

「うぐっ!」

重みに耐えかねて悲鳴を小さくあげると、わりぃともごもごした声が聞こえた。
でもさーオレ頑張ってお前が起きるまで結構耐えてたのにさーっと、まるで子どものような弁解が始まる。そんな風にされるとアンタ年上だろ?と怒るより呆れてしまい、サスケは軽く金の頭を小突いて息を吐き出した。

「わ、わるかったてばよ」

それを聞き取った男が少し焦った感じで胸元から顔をあげサスケを見返したので、サスケはおかしくなって思わず吹き出してしまった。

「アンタ、本当にウスラトンカチだな」
「……っ!?」

目の前の男が一瞬泣きそうに目を見開く。そして切なげに微笑んだ。その表情の移り変わりはまるでスローモーションのようで、サスケの胸にじりじりと刻みこまれる。

「サスケ、ちょっと散歩に出ねぇか?」

初めて名前を呼ばれた。
名乗った記憶は、ない。
けれど雰囲気にのまれたサスケの口からはついに言葉は出ず、こくりと頷いただけだった。
男が笑う。
たぶん、しばしの別れが近いのだろう。
もう逢えないわけではないことを、サスケは理屈じゃなく本能で確信していた。



春風が舞う。温かいはずの風は、朝からずっと部屋に籠っていたせいか少し肌寒い。
夕闇に浮かぶ景色は靄がかかったように不明瞭で、知っている道なのに前を歩く男がいるせいか、どこか知らない道に思えた。






09/11/17