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 優 
し さ 
に 
崩
 れ た
 正
 午
 
 「いた、だきます……」
 目の前に置かれた湯気をたてている昼食に思わず動揺してしまった。
 バレた、のだろうか。そりゃあ身長はかなり伸びているが、見た目の特徴はあまり変わらないし、素を隠してもいなかった。気付いて当たり前だろう。
 けれど、現実的にはありえないことなので、決定的な証拠さえ与えなければ賢いこいつのことだから突っ込んでこないはず。
 そして、これは微妙に感づいたサスケの気遣いなのだろう。
 目の前でおいしそうに湯気をたてているカップ麺。これは己の好物だ。
 アカデミー生らしいサスケは、学校で子どもの自分があの優しい担任に強請るのを目にしたことがあったのだろう。
 それを意識してなのか、ただ単に記憶力がいいから覚えていただけなのかはわからないが、サスケが知っていてくれたという事実にナルトは身体の奥が温かくなるのを感じた。
 
 こういう、妙に優しいとこが嫌いだってばよ。
 
 アイツの優しさを知っている。自分の信念を貫く人間だと知っている。
 知らなかったらきっと嫌いだけど好きだなんて複雑怪奇な気持ちは持たなかっただろう。憧れて、認めてもらいたい存在。
 唯、同時に自分はサスケのことをそれだけしか知らなかった。
 一緒にチームを組んだあの僅かな期間、サスケのことを知ろうと思わなかった。
 いや、そうじゃない。人との距離をはかることが不慣れ過ぎて、初めてできた近い存在に戸惑ったのだ。
 そして、今自分とコイツの間に存在するものだけが全てなのだと思い込んだ。
 サスケが優しい人間だと知っている。
 それは、任務中に敵を倒した後差し伸べられた手や、口は悪いが仲間を気遣うしぐさ、そして、あの谷で自分を殺せなかったという事実に思う。
 だけど。
 
 
 『じゃあ、なんで置いて行った?』
 
 ……そんなの、理由があるからだってば。
 
 『どんな?仲間を裏切るほどの理由があるのかよ?』
 
 どんなって、一族の復讐だろ。それにあいつは裏切ったんじゃなくて、ただそういう選択肢を選んで、偶々そこにつけこんだ大蛇丸の野郎に唆されたんだ。あいつの意思じゃねぇ。
 
 『裏切ったんだよ。それはアイツの意思だ。現に自ら出て行ったきり、この三年間一度も帰ってこなかったじゃないか』
 
 うるせぇ!なんか理由があんだってばよ!それにっ、もし、万一そうだったとしても、オレは、あいつを……!
 
 
 ボタリ、と何かが落ちた。
 目の前の席から溜め息が聞こえて身体が跳ねた。一気に悪夢のような現実に引き戻される。
 サスケがまだこの里にいる。あの兄に、まだ、再開していない。
 今なら間に合うのか?やり直せる?
 でも、このサスケはまだ、オレとマンセルを組んでいない。きっと、オレのことなんかまだちょっとしか意識していない。もしここからやり直せたとして、今以上の絆を感じる関係が築けるのか……。
 前から椅子が小さく悲鳴を上げたのが聞こえた。
 
 「あんたさ、」
 
 馴染みのある声より少し高い声。
 動いた気配に、もしかしたらこのサスケにも見捨てられるのかという絶望がナルトの頭をよぎって、たまらず涙がまたボタリボタリと溢れた。怖くて顔があげられない。
 
 「あんた……」
 
 はぁ、と一際大きな溜め息が近くで聞こえた。
 
 いやだ、サスケ!サスケ!!
 
 心が悲鳴をあげる。でも声はでない。動けない。まるで心の臓に冷水を流しこまれたよう感覚に陥った。
 その時。
 温かい、何かが頭にのっかった。
 そして、その小さな温もりが、ぎこちなく、けれどひたすら優しく、上から下へと何度も何度も往復した。
 そのあまりの温かさに、ナルトは今度は違ったおもいで涙が零れるのを感じた。
 
 
 
 恥も外聞もなく泣きじゃくった。
 
 辛かった、怖かった、寂しかった。
 
 だめだという脳内の警告を圧殺した。
 
 まだ、しばらくはこの甘やかな温もりに縋っていたかった。
 例えこの優しさが、儚い夢だったとしても。
 
 
 
 
 
 
 09/10/01
 
 
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