「調子が狂う……」

逃げるように立ったキッチンで、食器が手の中で音をたてるのも構わず乱暴に朝食の片付けをしながらサスケは呟いた。




午 前 あ と


昨日散歩の途中に拾った野良が、とうとう今朝本格的に飯に手をつけなくなった。
野良といっても猫や犬なんかじゃなくて、自分より何歳か年上の男だ。
昨日は昼、夜と食べていた。否、本当に食べたのは最初の一食だけのようにも思われる。それも今となっては怪しいが。とにかく、最初の食事では、あまり食欲がないと言いつつも男はそれなりに食べていたのだ。
そして、二番目の食事(つまり昨日の夕食)では、出会った時より少し明るい表情で、きっちりとヤツは一食平らげたのだった。それを見て正直サスケはほっとした。別に知らない人間の世話なんて焼くつもりはなかったが、捨て置けず家に入れてしまった以上責任がある気がしたのだ。生命は大切に、だ。
しかし、その夜サスケは愕然とする。夜中、水を飲みに起きた際に、男が自主的にもどしていたのを見たのであった。様々な理由がチラついて直ぐには声をかけられなかった。そうこうしているうちにもどし終わった直後の男の様子が、吐いていた最中よりも苦しそうで、悲しそうに見えてしまって、サスケは気配を消すことしかできなかったのだ。
素性は知れない。けれど自分の知っているやつにとてもよく似ている。
初めはひょっとしてアイツが変化して自分をからかっているのかと思ったが、確かアイツは変化の術が大の苦手だった。
それにアイツなら、飯はどんな時でもちゃんと食うだろうし、こんなオレにバレるような不安定な気配は纏わない、はずだ。
そして何よりも、もしアイツならば、変化していようがどんな術を使っていようが、自分ならすぐに見破れるという根拠のない確信が、サスケにはあった。

アイツじゃない。現実問題変化でなければそれが当然のことだし、違うとは思っているのに、外見の特徴と話し方が丸々同じなのでサスケはほとほと弱ってきた。
さっさとあの人の良い担任に相談するでも、屯所に引き渡すでもしたらいいのだが、なぜかそれができない。
自分の心が“うん”と言わなかった。
まるでこの男の存在が自分の中の罪悪感や不安そのもののような気がして、免罪を払うまで誰にも見せられない気がするのだ。

人の顔見て泣きやがるから……。

『――置いていくな……ッ!』
意識を取り戻してすぐサスケを見た瞬間、確かにこの男はそう言って、まるで条件反射のような早さであのスカイブルーの瞳を濡らした。

だからこの変な罪悪感や不安もそのせいだと思いたいのに、現実は“思う”ではなく“思い込む”感じになってしまい、なかなか上手くいかない。
いつの間にか最後の1つになったお椀を漱ぎ、チラリと視線を後方にやる。
結局ほとんど皿に手をつけなかった男が、まるでこの世の終わりのような面をして宙を見ていた。何がこの男の絶望感を煽るのかは知らないが、今朝から見るもの全てに絶望しているようなので、だったら寝とけと一言言った方がいいのだろうか。
唯、それでは物事は進展しない。幸い今はアカデミーが春休みだった。

「しょーがねぇ……」

試しにまずは昼飯にこれを与えてみるか。
サスケは棚をあさり1つのお椀型の物を取り出すした。
それはこの男にそっくりな奴が、良く担任の男に強請る好物だった。








09/08/27