め た


「ほらよ」

非難を含んだ声色である。
目の前にはほかほかの白いご飯と焼き魚にお味噌汁、漬け物などがテーブルの上に所狭しと並んでいる。
昨日の半日で、それらがとても旨いものだということと、アイツが飯を作れたことを知った。考えてみれば当たり前のことだけれども。
1日は3食だ。いま目の前に並べられたものは朝食で、ここに来てから3度目の食事だった。つまり、このよくわからない世界にナルトが着てから、太陽が一度沈み、また昇ってしまったのである。

おめでとう、オレ。2日目突入だってばよ。

あれから約丸1日過ぎた。単純だとよく言われ、自分でもそうだということはそれなりに自覚もしていた。タフだとも思っていた。チャクラなんてカカシ先生の倍以上で、おまけに狐憑き。けれども……。

「おい」

今度はため息まじりの声。それさえ様になっている気がして気にくわない。
一晩たったのに、このわけのわからない板挟みのような現実は全く終わる兆しがないらしい。その証拠に食卓の向こうには……。

もう、嫌だ……

黒い髪に黒い瞳。すっと通った鼻、薄い形の良い唇。年齢の割りには大人っぽい落ち着いた雰囲気。けれども輪郭は丸みをおび、小さく……。
そうだ。これらがもう少し、引きのばされていたら問題なかったのかもしれない。
少なくとも、この様な根本的な矛盾を抱くことはなかった。
だっておかしいではないか、目の前にいるのはどう見ても、チームを組んだ時よりも幼いサスケ。

「ったく1人で飯も食えねぇのか!人ぼーっと見てないで食え!!」

なんだか何もかも限界な気がする。
サスケがいる(けれど小さい)。
サスケがいない(これが本当のオレの現実)。

昔のサスケがオレにご飯作って食べろだって。はは、なんだそれ。頭可笑しくなったんじゃね、オレってば。

こんなに、サスケのことが好き、だったのだろうか。
くつくつと笑えば目の前のサスケがひいたのがわかった。けれどもそれは一瞬のことで,どこから持ち出したのか、サスケはスプーンを手にして人の顎を閉じられないよう固定し、口に飯を突っ込んだのだ。

「……んぐ、いらねぇ!」
「いーから食え!」

どたんとイスから二人して転げ落ち、フローリングの床に転がる。腰を強かに打ち、顔を顰めた。気づけば昨日と同じ体勢。でも、背景は白い壁。
その白さに目が眩む。ふと現実に嘲笑われている気がして、容量を超えた感情がナルトの中で爆ぜた。

「どうせオメーは……ッ!」

ナルトの怒号に、上に乗ったままのサスケが僅か、慄いた。
その瞬間、理解させられる。
コレは、このサスケに言ってはいけない言葉だ。

っくしょう!

言葉を途中で止めたナルトはそっぽを向いて押し黙る。遣り切れない思いが目線の先、このフローリングの床を滑って窓の外のどこかへ行ってしまえばいいのにと思う。

「なんだよ……」

サスケが言葉を紡ぐ。けれど、続くはずの言葉はサスケの中でどうにも形にならないらしく、その小さな下腹部に落ちていった。それでも小さなサスケは仕方なしにその落ちていった重みを別の重みに置き換えて、忍耐強く再度言葉を紡ぐ。

「……飯、毒なんか入ってないんだからちゃんと食え」

吐いてしまうな。
続けようとした言葉は、突然現れた男との関係には禁句だとサスケは思い、今度は自主的に飲み込んだ。
その逃げるでもない、理不尽な自身の態度を責めるでもないサスケの優しさに、ナルトはただ黙って口に入れられたものを嚥下するしかなかった。







09/08/27