| これが唇。
 これが頬。
 これが瞼で、これが額。
 
 全てが、この愛しい存在を構成するのもの。
 
 
 
 
 所詮子どもの戯心(ショセンコドモノザレゴコロ)
 
 
 
 自分より一回りは大きいパーツに溜め息がこぼれる。
 辿った、自分の男よりも小さな手を見て子どもは悲しくなった。
 いつになったら、この存在より大きくなれるのだろうか。
 
 早く大人になりたいと、その子どもは最近益々思うようになった。
 それは、今隣で眠っている男のせいである。
 この男の周りにいる人間と同じように、いや、それ以上にもっと近く、この男の傍に立ちたい。そう常々願った。
 
 背が高くなれば、強くなれば、大人になれば。
 
 男の時間を越すことの出来ない子どもはそればかり考えてしまう。
 それさえ出来ればこの男の存在を全て自分のものにできるかもしれない、そんな淡い期待が胸の中に確かにあった。
 それは子どもの単なる戯心にすぎないが。
 
 けれど子どもは身体だけ大きくなってもまるで意味の無いこともちゃんと理解していた。
 この男に皆が魅かれる理由が、正にそれなのだから。
 そして、それを上回るものを自分が手に入れることができるとは全く思えず、今この瞬間、きつく唇を噛むことしかできないでいるのだ。
 
 いや、できることはまだあった。
 最近するようになった行為をまだぎこちない動きで始める。
 眠っている男を起こさないように、そうっと夜着の一番上の釦に手をかける。
 一つ、二つ、三つ。これぐらいでいいだろう、と手を止め、襟元を寛げさせて覗いた白い肌に唇を落とす。
 くちづけは、この男が自分にだけ許すもの。
 唯一この瞬間だけはこの男を自分だけのものにしたと思えるのだ。
 だから子どもはいつまでも期待してしまう。
 
 背が高くなれば、強くなれば、大人になれば。
 
 もしかしたら、それだけの時間を費やしたらこの存在を手に入れることができるかもしれない、と。
 
 「こぉら。朝っぱらから何してんのかな?サスケちゃん」
 
 視線を上に移動させると不機嫌そうに細められた青い瞳とかち合う。
 そういうところにするのはダメだって言っただろ、とその男、ナルトが欠伸をしながら言った。
 寝起きで舌足らずな声は自分のよりも幼く聞こえるのに、この男の時間は自分より三年も先をいっているのだ。本当に納得がいかない。
 ナルトの退け、という言葉を無視して子ども、サスケはナルトの白い首筋に噛み付いた。
 「ちゃん」付けされた仕返しだったのかもしれない。けれど、それだけでは、もちろんない。
 
 「オレのもんっていうしるし」
 
 にやり、と笑う。よくナルトに子どもらしくないと文句を言われる笑い方。だからこの笑い方をサスケはとても気に入っていた。
 
 「ってぇ……はあ?意味わかんないってばよ」
 
 文句をたれながらナルトはサスケの背中に手をまわして自分の方へ引っ張り、バランスを崩して倒れてきたサスケをぎゅうと抱きしめる。完璧な子ども扱いだ。
 サスケが突然のことに驚いて絡み付いてきた腕を振りほどこうとしたら、首筋に鈍い痛みがはしった。
 
 「はい、これでおまえはオレのもんな。お揃い」
 
 にか、と歯を出して笑ったナルトにサスケは眩暈を覚える。
 
 そんな顔して、よく言う。
 
 自由そのものの様なナルトの笑顔。
 けして誰のものにもなりはしないような、そんな強い光をもった笑顔だ。
 
 オレはお前のものだけど、お前はオレのものじゃねえじゃねぇか。
 
 「もう、子どものくせにそんなところに皺なんて作ってんじゃねぇってばよ」
 
 ナルトはサスケの眉間を突きながら苦笑して言った。
 作らしてるのはお前だろ、という言葉を飲み込んで、サスケは今のこの状況を満喫することにする。あまりにもナルトの温度が心地よかった。
 
 そのうちコイツより身体は大きくなってやるんだからな。
 だから、今だけは子ども扱いさせてやるんだ。
 
 「お前がキスしてくれたら直るかもな」
 
 いい訳を心の中でたくさんしたサスケは、そうふて腐れながら呟いた。
 心の中の葛藤で更に深く皺を刻んでいたサスケの眉間に、ナルトがふわりとキスを落とす。
 
 「そこじゃ、ねぇ」
 
 子ども扱いされているせいか、素直にナルトがキスをしてくれたせいか、どちらにせよサスケの顔は真っ赤に染まった。
 そう言うサスケにナルトは素直に今度は唇にキスをくれる。
 寝ぼけ眼のまま、目の前で穏やかに笑うナルトを見て、サスケは今すぐナルトを自分のものにしたいと心の中で強く望むけれど、結局今度は手段も何も思いつかず、小さな舌打ちが虚しく自身の鼓膜を震わしただけだった。
 
 
 
 
 
 これが唇。
 これが頬。
 これが瞼で、これが額。
 
 再び眠りについた愛しい存在。
 自由を具現化したような、そんなとても強い人。
 それを疎ましくも思うけれど、そんなうずまきナルトだからこそ自分は好きなのだ。
 
 今はまだ、オレだけがお前のものになっててやる。
 だけど必ずこの淡い期待を本物にする力をつけてみせるから。
 その時は、覚悟しろよ。
 
 
 背が高くなれば、強くなれば、大人になれば。
 
 
 
 
 その時がきたら、きっと貴方をオレのものにしてみせます。
 
 
 
 
 
 06/12/20 07/06/26修正
 仔サスケ×ナルト。漫画だけでは飽き足らず、文でまで書いてしまいました;
 
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