許さない……
そう言った男はいつもと違う生き物に思えた。



擦れ違い・想い違い 2


「サスケ?わりぃ。関係ないって言うのは違うくて……」

「何が違う?さっき言っただろ?」

いつもと違う。最近サスケから漂っていた柔らかな雰囲気とは似ても似つかない冷たい雰囲気。
ひやり、としたサスケの視線が痛くてナルトは思わず黙る。
するとサスケは何を勘違いしたのか、また自嘲的な笑みを口元に浮かべた。

拘束しているサスケの手の力が強まり、ナルトの腕が悲鳴をあげる。
黙って何も言えなくなってしまったナルトは、ただ眉を寄せて歯を食いしばることしかできず、痛みで生理的な涙が滲んでくる。

サスケはそれを、ただ、冷たい眼差しで見下ろしていた。冷えた、氷なような視線。

サスケ……?

サスケの冷たい視線にナルトの胸がズキンと痛む。

段々きつくなる戒めに、流石にこのままいくと手首の骨が折れてしまうと考え、ナルトは腕に力を入れて押し返そうとした。が、時既に遅し、だ。

「今更押し返してなんとかなると思ったか?遅いんだよウスラトンカチ」

「っ!!!」

サスケが皮肉気にそう言って浮かべたのは、いつかの死闘の際に見せた狂気じみた笑いにそっくりで、ナルトは自分が殺されるのだと思った。

目をつむり、腕が折られるのを覚悟して痛みを待つが、その瞬間はいっこうに訪れない。

代わりに訪れたのは、温かく柔らかな感触。

これって……

身に覚えのある感覚。
アカデミーで起こった嘘のような事故の瞬間がフラッシュバックする。

ナルトは目が、恐くて開けられなかった。
今開けたら何か見てはいけないものを見てしまう気がする。そう思ったナルトは更に瞼に力を入れた。これが夢なら早く覚めてしまえばいいのに、と。
しかし、いくらナルトが思考を逃避させようとも、現実は残酷に進んでいく。

柔らかな感触が落ちたのはナルトの唇の上で、きつく閉じている唇を、湿った何かがゆっくりなぞっていく。

これって、まさか……

ナルトはこの感触の正体をサスケに問うことで確かめようと思ったが、これでは下手に口を開くこともできない。
流石にまだ目を開けて見る勇気はなかった。


絶対に口を開いてたまるか、と歯を食いしばっているナルトを、サスケは皮肉気に口端を歪めて見遣る。
そして圧迫されたため麻痺していたナルトの腕を簡単に頭上で一纏めにし、空いた手でナルトの鼻を摘んだ。

「……っ」

鼻からの呼吸を止められて、息苦しさに更に眉を寄せたナルトが、薄っすらと目を開けサスケを睨み付ける。

ナルトはけして今起こっていることを直視しようと思ったわけではなかった。
ただ、ここまで自分相手にやっているサスケがどんな顔をしているのか知りたかったのだ。
目を開けぼやける視界に映ったのは、思っていた以上に近いサスケの顔。
ナルトはこれ以上ないぐらい眉を寄せ、歪んだ世界に力を抜く。
見たくなかった現実を直視した瞬間だった。

ナルトの小さな抵抗は数秒で終わり、酸素を求めて口は開かれた。
青い瞳はまた逃げるように瞼の裏に隠れたが、サスケは開かれた口に満足して、自分の唇をナルトの唇に押し当て舌を差し込む。

呼吸がままならない間に口内がサスケによって蹂躙される。
息を吸わせる気がないのか、その激しさは増し、ナルトは口の中で動きまわるサスケの舌に翻弄されるしかなかった。
歯列をなぞられ、逃げる舌を絡み取られて、顎裏を舐めあげられる。どちらのものか分からない唾液がナルトの口端から流れて、シーツに染みをつくった。

漸く唇を解放された時には、ナルトは酸欠でほぼ放心状態に陥っていた。

焦点の合わない瞳で天井を漠然と見る。酸欠と慣れていない刺激。肉体的、精神的な打撃を受けたことで考えることを放棄した頭は痺れて使いものにならない。
ただ、心が痛む。
無理矢理強いられた慣れないキスは、ナルトの精神に深く傷を刻みつけ、恐怖を与えた。
好きと自覚したばかりの相手に、過去に自分を切り離そうとした時と同じ眼をもって、愛の行為の一つとされるキスを強いられた。

ナルトにとってはトラウマになっていると言っても過言ではない、サスケの憎しみのこもった眼。
その眼をもって行われる、欲情を煽られる行為。
理解の出来ないサスケのチグハグな行動に、ナルトはただ混乱したまま明るい光の満ちた天井を見上げた。





06/12/06
本当は「2」で終わる予定だったという…
だらだら続いて申し訳ないです。次で完結予定。
よろしければ最後までつきあっていただければ幸い。