世界の法則




「サスケ?」
「なんだ……」

林の暗闇から闇を具現化したような男があらわれる。

「お前まだ怒ってんのか?」
「…………。」
「ちっせーこといつまでも気にすんなってば」

本日、六代目火影に就任したうずまきナルトはそう言って快活に笑った。

「何がちっせーことだ。ウスラトンカチ!!」

闇を具現化したような男、うちはサスケが苦々しく言い返す。

「オレは一度里を裏切っておまえを殺そうとした男だぞ!そんなやつを……」
「火影補佐管に任命した?」

サスケを見る碧い瞳は、なにもかも見透かしたようにキラリと輝いた。

「逃げんなよ、サスケ」

サスケの身体はびくっと反応する。

「逃げんな。過去にも未来にも」
「意味が、わからない」

ナルトの真剣な瞳をそれ以上見ていられなくて、サスケは下を向く。

「過去にしたことを言い訳にすんな。未来に思いを託すな。」

サスケは息をのんで唯ナルトの言葉を聞く。
まるで神に裁かれている罪人のような気分だ。

「サスケ、今を見ろ」

澄んで強く響いていた声色がふわりと柔らかくなった。

「今のおまえと、オレを見ろってばよ」

「……っ!」

どの口でそんなことを言うのか、と思う。

「何が今を見ろ、だ!オレなんかが補佐管になったら年寄りどもは余計にいい顔をしないんだぞ!!!他の里だってそうだ!お前の夢を、オレはこれ以上邪魔したくない!」

殺そうとした。ナルトを何度も命が危うくなる状況に追い込んだ。
その自分に夢を叶えたナルトの横に立つ資格は、ない。
立ってはいけないのだ。立つ資格を持っている、立ちたいと望んでいる者がこの男の周りにはいくらでもいるだろう。自分を木の葉里に連れ戻すために骨をくだいてくれた者達はほとんどそうではないか。

「オレ、お前がいなきゃ楽しくないんだ。楽しいけど、楽しくない」
「……?」
「なぁ、サスケ。この世のものは、全世界も人生のすべても、魂を作る素材にすぎないんだって。魂がオレを、お前を、周りにあるすべてを顕している」

ナルトは一息ついてサスケに近付き、右手をサスケの心臓の上のあたりに重ねた。

「確かにお前のせいで皆傷ついたかもしんねぇし、オレだって色々なめにあったってばよ。だけど、一緒におまえも傷ついてる。」

目が見れない。

「今を見て、サスケ。今、お前はどうしたい?オレはどう思ってる?みんなは?まだ責めてるか?」

「責めてない……」

ポツリと言葉がもれる。
そう、本気で最後の最後まで責めたやつはいなかったのだ。
なぜここまでやった人間を憎まないのか、わけがわからない。
だからこそ、

「……責められないから苦しいんじゃねぇか」

またポツリ、と言葉が落ちる。
情けない。

「みんな、帰ってきた当初は散々に言ってきたけど、結局最後は帰ってこれてよかったな、って言う!!なんで笑える!お人好しもここまできたら度が過ぎてる……ッ!」

いつの間にかサスケはナルトの肩に縋り付くように手を掛けていた。
声も手も震えが止まらない。
ああ、本当に情けない。


「あはは!それがこの里なんだってばよ」

ナルトはそんなサスケを抱きしめ、体重をかけた。
どさっ、と音がしてサスケの目の前に夜空が広がった。

「サスケ、この里を守るためにお前の力を貸してくれ」

ナルトで夜空が見えなくなる。そのかわりに、昼の空のような瞳に自分が映って見えた。


「この草も土も空も風も、すべてお前なのか」

金色の髪に手を滑らせる。いったいいつ以来自分から触っていなかっただろうか。

「うん。んでもってお前でもみんなでもあるんだってばよ、世界中。だからこの里はそのほんの一部だけど、けれどオレ達にはとても意味のある場所だろ?」

ほんとうにナルトは突拍子もないことを言う。

世界中がオレでナルトでみんな、か。

この世界が急に鮮やかになって、愛おしさが込み上げてきた。

その気持ちをどうにかしたくてナルトを見ると、甘く潤んだ碧に誘われる。
髪に滑らせていた手に少し力を込めて引き寄せると、その碧は静かに金の睫毛の下に隠れていった。

夜明けまで、まだ時間はあるだろうか。

就任した初日から火影様を遅刻させるわけにはいかない。
けれど、この込み上げてきた思いをどうにかするまで、サスケはナルトを腕のなかから出す気には到底なれないと思った。


――火影補佐管、早々に失格だな








06/07/30
「全世界も人生のすべても、魂を作る素材にすぎない」のところは、『ソウルメイト』から引用させていただきました。
うちのサイトのサスケは相変わらずヘタレですね;
本当はこの話、漫画で描きたかったんですが今回は文章で。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。