『誘い水の中』
最近の悩みっていったらろくでもないことばかりだ……
「また流された……」
ナルトはポツリとこぼして隣に目をやった。空はまだ白み始めたばかりなので、隣の人物が寝むっていることは道理に適っているとは思う。だが、自分の隣の人物が男だということは、全く道理に適っていないとナルトは思うのだ。
「くそ……制服ぐちゃぐちゃだってばよ」
遠目にも無残な有様の制服が目に付く。けれどベッドの下に放り投げられた学ランの上着やズボンはまだいい方だ。問題はカッターだ。脱がされずにヤられたものだから、汗や、たぶん精液なんかも染み込んでしまっている。 どうやって帰ろう……そう漏らそうとした唇が突然何かで塞がれた。
「んんっ……!」 「……朝からぶつくさとうるさい奴だな」
隣で寝ていたはずの男が、不機嫌を隠そうともしないでいつの間に、という素早さでナルトの上に乗り上げた。
「今日は随分早いお目覚めだな。ヤり足りなかったか?」
にやり、と歪められた顔が憎らしい。
「今日はっていうけどお前んち泊まったのなんか今日でまだ3回目だってば」
言外に、たかだか3回で勝手にいつも遅いと決めつけるなよと含めて言ったつもりなのだが、サスケの顔を見ているとどうにも自分の言うことを相手にする気がないらしい。スカした顔で鼻を鳴らされた。 こんにゃろう、と思ってナルトが身じろぐと、サスケがちゃっかりズボンを腰にひっかけていることが重なる部分から今更ながらに分かった。思わず自分の格好の心許なさに思い至って、眉間にきつい皺が寄る。
「オマエ一人だけズボンはいててずりぃってばよ」 「オマエは上着きてんだろうが」 「こんなんなんの意味があるんだってばよ!」
ナルトの言うとおり、前全開のシャツでは肝心の部分が全く隠れず、一層何も羽織っていない方がマシなのではとさえ思ってしまう。とっさにせめてくったりしたシャツの前だけでもかきあわせようとするが、サスケが身体の上に乗り上げていてそれも叶わない。
「じゃあなにか?」
サスケの手が無防備に外気に曝された太ももを、形を確かめるように滑った。ぞくぞくする感覚に身体が反射的に強張る。
「お前は気を失った後にオレにパンツやズボンを穿かしてもらいたかったのか?」
太ももから上がっていった手が腰にまで上がり、ゆるりと恥骨を撫でてから尻に滑り落ちた。そのまま下から撫で上げるようにしながらサスケはナルトの身体をゆっくりと折る。 余りにも自然な動きに、感じてなるものかとそちらの方にばかり気をとられていたナルトは、見られたくない場所を2つ同時に曝け出されるポーズに羞恥で顔を真っ赤にした。
「こうやって、寝てる間に穿かしてもらいたかったか?」
ふう、と秘所に息を吹きかけられて、一瞬にして昨日のあられもない行為がナルトの脳内に蘇った。
「なっ……」
それを自分の頭の中から必死に追い出そうとするが、考えないようにしようとすればするほど、次々と昨夜の快感の波が脳内を浸食していく。湧き上がった羞恥心に耐えきれなくなってサスケから顔を背けて固く目をつむったが、サスケの方を向いている頬が、向けられているであろう視線を感じ取って、燃え上がりそうなぐらい熱くなった。
「ナニ思い出してる?」
とっさにサスケの視線から庇おうとして手を上げたのだがサスケの声は自分の横を向いた顔の正面からする。腹や胸にかかる圧迫感や合わさる生々しい肌の感触に、開けてはダメだとわかっているのに怖いもの見たさでナルトは目を開けた。
「……っ!」 「エロい顔……」
乱れた艶やかな黒髪が、重力に従ってサスケの頬にかかっている。
どっちがだよ
ナルトをからかうように少し薄い形の良い唇の片端が引きあがっていた。意地の悪い笑みを浮かべたままサスケは楽しそうに上唇をゆっくりと一舐めする。その仕草に心臓が変な音を立てるのだから質が悪い。そのままスローモーションのように顔が近付いてき、少し冷たい唇が抵抗する間も無く掬うように合わされた。 初めは唇を合わせてその感触を楽しんでいただけの行為が、もっと奥を寄越せと舌や歯まで使われる激しいものにかわる。苦しさにナルトが思わず顔を背けると、まだ足りないとでもいうように、頬に首筋にと歯がたてられた。
「朝食、お前の好きなもの作ってやるよ」
突然吐息と共に囁かれた声を追って顔をあげると、明らかに変化した濡れた漆黒の瞳と視線が絡む。
「その代わり、オレの朝食はオマエ、な」
アホか。そう返す間もなく再び唇が強引に奪われる。剥き出しの下半身に押しつけられた布越しの熱が本気だと語っていて、嫌でも熱が伝染した。
「んっんん!はっ……朝っぱらから、はぁ、さかって、じゃね……」 「強情なやつだな。お互い様、だろ?」 「うあッ……」 「ほら、カラダは素直だな。ナルト」
さいてーやろー、荒くなってしまった息と共にそう罵ってもサスケはただ楽しそうに笑うだけだ。 その顔を見たナルトの心臓がどくり、と鳴る。
ダメだダメだダメだってばよ!雰囲気に流さてれるんじゃねーぞ!!
必死に言い聞かせてもすでに後の祭りだった。一度過ぎった考えは、サスケに翻弄されているこの行為が終わった後でもこびりついて脳裏から離れないに違いない。浅はかだったと笑えればきっと上々。 過敏になった身体を、ナルト自身よりその身体の性感帯を熟知しているサスケが容赦なく攻め立てる。 声が抑えられなくなって羞恥心で頭の中がショートしそうだ。この間生物の時間に習ったシナプスが焼ききれているんじゃないだろうか。 せめて自由な自分の指に歯をたてて声を抑えようとすると、その手は簡単にナルトの口内から引き抜かれて目の前の男の口内に運ばれる。指先に絡む赤い舌。歯を立てられ、爪にすら性感帯があるのではという錯覚。視界の端、サスケの向こうに自分の両足が他人ごとのように揺れていた。
もう、ダメ……
強烈な目の前の光景に脳内がチカチカと点滅して、ナルトは自分の考えに抗うことを放棄した。
なんだってばよ、さっきからその顔、反則だ。
目の前の端正な顔にせめて最後の抵抗のように毒づく。
うっかりカッコいいかもなんて、思っちまったってばよ……
この行為が終わりを告げたとき、自分は一体どんな顔をしてサスケと向き合おうか、そんなことすら考える余裕もなく、ただ溺れるままにキスを強請った。
06/10/26
補足として現代パラレル、高校生、セフレ設定だったり(サスナルでそんなのやるなよ…!)
友人宅で飲んだナルトが夜の散歩中のサスケ(他校生)に絡んでそのままお持ち帰りされて、その後「あの時のことバラすぞ」とかサスケに言われて(サスケが最低だな!けどナルトに惚れちゃったんだよ)、んで気持ちなんて確かめない間に関係がずるずると…っていう実も蓋もない話の一部です;
本編は、機会があればそのうち。(ギャラリーの裏に一部漫画があります)
※お酒は二十歳まで飲んじゃいけません;
|