『容疑者N』と同設定。幼馴染、高校生。



今日はいい天気。久しぶりの快晴。
休みだから学校もないし、なんだかいいことが起こりそうな予感がする。


ガチャリ

「よぉ、ウスラトンカチ漸く起きたか。おせぇぞ」


「…………。」


ナルトの部屋の扉の前、隣のうちの次男坊、うちはサスケが上半身ハダカにジーパンで立っていた。




残り時間は親指分




ガン、と頭に衝撃を受ける感覚。

オレハナニモミテナイ。ミテナイッテバヨ。

ナルトは自分に暗示をかけて再び布団に潜った。
はい、深呼吸してもう一度。

今日はいい天気。久しぶりの快晴。
休みだから学校もないし、なんだかいいことが起こりそうなヨカーー

「おい。なに見ない振りしてんだ?ナルト」

ぐいっと再度被った布団を引きはがされる。
ナルトの頭の上で響く低音は普段より低く掠れていて、サスケも今起きたばかりなのだとわかった。

どうりで隣がまだあったかいと、ととと待て、何も考えるなオレ!!!心を無にしろ!!!!!

「あ、あれ〜?サスケいたの?おはよ〜ってばよ〜」

「いたのじゃねぇだろ?お前さっきオレと目合ってたじゃねぇか」

「そうだっけ〜?じゃあおやすみ〜」

早く、早く布団を被って眠れ!!オレ!!!

ナルトのそんな願いも虚しく布団はいくら引っ張ってもびくともしない。

まぁそりゃそうだよな。

視界の上辺りに映るサスケの手が布団を掴んだままなのだ。

「サスケ、オレまだ寝るの。今日休みだし」

「もう昼だ。充分寝ただろ?それよりお前するべきことがあるだろ……」

「んな、なんの話だってばよ?」

声が裏返る。
言うな、言うなよサスケ。

「風呂、沸かしてきたから。湯が溜まったら、入るだろ?」

「うん〜」

早くも頬が引き攣ってきた。
サスケがなんでうちんちにいるのだとか、なんでそんな格好で、なんで風呂を沸かしてくれたのだとか、今は考えたくない。

だから、それ以上はもう何も……

「腰、やっぱ痛いか?」

うぎゃーと叫びだしたい気持ちをなんとか抑える。
心配そうな声からサスケが気遣って言ってくれてるのは分かるんだけど、だけど。やっぱり初めてはきついよな、とか軟膏塗ったほうがいいか、とか。そんなこと……

「お願いだからそれ以上言うなっ……」

ナルトの声は思ったより小さな声になった。目の端には涙が滲んできている。

目を見開いたサスケがナルトの方を見て、オレ声に出してたか、と問うたので、わざとではなかったらしい。


恥ずかしいんだよバカサスケ。


「オレ、風呂入るわ」

ナルトはその場からさっさと逃げ出してしまおうとシーツを身体に巻いてベットから一歩踏み出した。
案の定と言うか、何とかいうか。昨晩酷使された身体は全くいうことを聞かず、ぐらり、と傾く。

この後の展開ぐらい、オレにだってわかる。

頭でこの後の展開を思い描いてナルトは心中で溜め息をついた。
思った通りの衝撃、感触、匂い。そして、

「ナルト、大丈夫か?」

思った通りの声。
やっぱりな、お前は押さえるとこしっかり押さえるやつだってばよ、サスケ。

しっかりと肩を抱き寄せられ、ナルトは冷たく固い床の上ではなくて温かいサスケの腕の中にいた。

「うん。だいじょーぶ」

サスケの肩に手をかけて軽く押し返す。

オレだって男だ。これ以上サスケに無様なとこは見せられねぇ。

ぐっと足に力を入れる。

あれ、なんか上手く力入らねぇ。

「ナルト?」

「だ、大丈夫だってば!!」

サスケが心配そうにこっちを見ている。
焦るな、焦るなオレ。平常心だ。
けれどやっぱり焦ってしまう気持ちとは正反対に、身体は石のように動かない。

どうして……

ナルトは頭の中いっぱいに疑問符を浮かべる。
ふと、石のように動かなかった身体が浮いた。

「な!サ、サスケェ?!」

見るとサスケが背中と膝裏に手を回して抱き上げていた。

「動かないんだろ。今日はオレが責任とって全部お前の世話するから」

「え、いい!!いらないっばよ!!!」

冗談じゃない!今からオレ風呂入るんだってばよ?昔ならまだしも、好きだと自覚した、しかも昨晩初めてヤッた人間と一緒にあの明るい浴室に入るなんて!!恥ずかしくて死ぬってば!!

「むりむりむり!!!ぜってぇ無理だってば〜〜〜!!!!!」

ナルトの叫びは浴室に続くほの暗い廊下に吸い込まれていった。







ナルトが抱えられた後散々必死に訴えたのも虚しく、現在サスケの足は淡々と浴室に向かっていた。

無慈悲だ…

抵抗でぐったりとしたナルトは唯一勝ち取ったお姫様抱っこは止める、という望み通り荷物のようにサスケに担がれていた。

「ほら、着いたぞ」

 あれ?

サスケはナルトをそっと床に降ろすと、脱衣所でナルトが身体に巻いていたシーツを剥ぎ取り、一人浴室に押し込んだ。

「外で待ってるから」

そう言ってパタンとドアを閉めてその場に座りこんだ。
ぼかしの入ったプラスチックのドア越しにサスケの後ろ姿が浮かび上がっている。

なんか、変なの。

釈然としない気持ちのままナルトはかけ湯をして、重たい身体をなんとか浴槽に入れた。
漂う沈黙のなかに、たまにナルトの動きに合わせて湯がピチャン、と跳ねる音が混じる。
その音が自分を急かしているように思えて、ナルトは一回湯船に頭の先まで浸かったあと、早々に浴槽からでた。そのまま髪を洗おうと思ってシャンプーを取るために視線を上げると、目の前の鏡にぼんやりとドア越しのサスケの背中が映っているのが見えた。

髪を洗うために目を閉じる。シャンプーをつけて泡立てて、シャワーで流して。
次は身体を洗おうと指先二つ分ほどになっている石鹸を手にとる。


「一緒に入らねぇの?」

再び目に入った鏡に映るドア越しのサスケの背中を見て、ナルトは考える前にそう口に出していた。
自分の言葉に思わず赤面する。

なに言ってんの、オレ。
さっきはあんなにサスケと風呂に入ること拒否してたのに。

サスケもナルトの言葉に驚いたのか、一呼吸置いてから答えが返ってきた。

「……ああ、今はまずい」

まずい?

「今お前と入ったら、何するかわからないからな」

なに?
何するかって……

「………………わかった。」

答えたナルトの顔も、言ったサスケの顔も、赤くなっていた。
妙な沈黙が続くなか、ナルトの身体を洗う音だけがシャコシャコと響く。

ナルトが身体を洗い終わるのが早いか、ナルトの浴室を出る決心がつくのが早いか。


どちらにしろ、石鹸はもう親指ほどの大きさになっていた。



06/11/16