mellow



「あちぃ…」

うだるような暑さが続く毎日。紺碧な空が目に痛く、鬱葱とした樹木は少しの圧迫感と心地のよい日陰をもらたしていた。

「うるせぇ。余計に暑くなるから黙ってろ、ドベ」

その言葉に鳴門がカチンときながらも口を噤んでしまったのは、自制がきいたとかそんなことではなくて。

人形みてぇ……

艶やかな黒髪と深い漆黒の瞳、長い睫と陶器のように白い滑らかな肌を、葉の隙間を抜けたきつい日差しと濃い影が彩っていて鳴門は思わずサスケに見入ってしまっていた。
その作りもののような額や頬から大粒の汗が流れ落ちているので、ああこれは人間だ、団扇佐助なのだと我に返る。
そして、涼しい顔をしている佐助もたぶん自分と同じようにもの凄く暑いのだろう、と、作文のように柄にもなく考えを整理して結論づけてしまう辺り、鳴門は少し己の考えていた内容に混乱したのかもしれない。綺麗な人形のようだなんて……
ああ緑の匂いが濃いな。くそっ、オレは阿呆かってば。

「精進が足りなかったってばよ……」

頭を掻き毟った後、腕をそのまま頭の後ろで組んで唇を尖らせると表情筋が動いた加減で自分の汗が口に入った。苦味が塩辛さになって甘みになって。
その味にうっとおしさを感じて鳴門は乱暴に袖を口元から額へとこすりつける。暑さがじわりと木綿にしみた。
蝉の声すらまだなのにこの暑さ。身体中の体液が空気中の湿度を介して流れ出してしまいそうだ。植物たちの生命力は生き生きと感じるのに自分は全く動く気が起きない。こんなところを襲われたら果たして逃げ切ることができるのか、その前にまずちゃんと立てれるだろうか。

まぁ佐助がいるし、大丈夫か。

佐助がどうにかしようとしたら、鳴門も負けずにどうにかしようとするし、佐助が諦めたらそれこそ鳴門はどうにかなる勢いでどうにかする。

「やっぱり大丈夫だってば」
「……さっきから何1人で寝言言ってやがる……」

いつの間にか瞑っていた眼を開くと佐助が思っていたよりも近くで鳴門を覗きこんでいた。影が濃い。
その顔はきっと不機嫌を表していたのだろうに、鳴門が眼を開けると眉だけその名残りをのこして後は驚愕の色に染まっていたので、鳴門は思わず佐助に顔を寄せる。
ただでさえ近い距離が更に縮まったが、頭が暑さのせいで働いていないのか全く気にならなかった。
ただ自分の大好きな植物を愛でる時のような、あの綺麗なものを、今一瞬しか感じられないであろうものをしっかりと目や心に納めておきたいという本能が自然に働いていたのだと思う。

あ、やっぱり白いってば。この黒も、すげぇ綺麗……

「……佐助ぇ?どうかしたのか。」

数十秒相手の造りを堪能してから鳴門が声を発した瞬間、さっと先ほど白さを再確認した頬に朱が挿した。

「うるせぇッ」
「へ……?」
「ったく熱射病で頭おかしくなったかと勘違いするだろが!ブツブツ寝ながらしゃべってんじゃねぇ!」

急な佐助の怒りに鳴門の脳はついていってくれない。
だいたいお前は、と続く口上に、ただよく動くお口だってばよと普段は自分の方が言われることの多い文句を思考の右から左に流す。
そんなあまりにもボー…っとしている鳴門に気づいた佐助は、妙なしかめっ面をした後、すぐに口を噤み舌打ちを一つしてから元の位置に座り直した。

「さっきさぁ」

急速に暗くなり始めた空を眺めながら鳴門は呟く。
風が変わった。乱れる前髪が急に鬱陶しくなる。
機嫌の宜しくない佐助はそんな鳴門の方をぞんざいに見遣る。
深い黒い瞳が更にその深さを増していた。
鳴門の瞳も既に灰褐色に染まった空を映し、鮮やかな碧が不思議な色合いを醸す。



***

『お前がいれば大丈夫だって、そう思ったんだってば』

佐助の目の前で光る不思議な色合いの碧が言葉を証明するように強い光を湛えて訴えてくる。
なにが、何言って、なんだって。それを見てどう返そうとしたのか佐助は自分でも分からなかったが、とりあえず佐助が「なっ」と発したのと大粒の雨が曇天から一気に、それこそ叩きつけるように降り出したのは同時だった。
ぎゃーやばっ!濡れる濡れるってば!と裾をたくしあげて勢いよく立ち上がって煩く叫ぶ鳴門の声と大量の雨粒の音にサスケの思考は流される。
心臓がドキリと音を立てた。どくどくと鼓動は忙しない。
続く言葉が言えなかったことに安心したのか、残念に思ったのか。

またもや微妙な表情をして未だに座りこんでいる佐助に鳴門は手を差し出す。

「行こうってばよ」

サスケの眼をしっかり見据えてナルトが不敵に笑う。瞬き一つ、次の瞬間には子どものようににかりと笑う鳴門がほら、と言った。
どこへなどとは微塵も思わなかった。
今度は大した疑問も持たずサスケは立ち上がる。
自分達が行ける場所なんて高が知れている。が、そういうことではない。


町には出ず、鬱蒼とした森の獣道を2人、小走りで駆ける。
途中で拾った壊れかけの赤い番傘を鳴門は咎められるのも聞かずに佐助の手を引いて差した。
緑に赤、金に黒。
鮮やかな色も足跡も、白い雨が今この時を微睡ませるのだから。

全ては儚き事象。



だから、どこまでも一緒に――




例えこの先道を違えるとしても、いけると信じていたいんだ。
今この瞬間生の中で。







08/07/08
浪人サスナル。
この時私はナルトが「あちぃ」 と言うのと、手を差し出して「ほら」と言うのに大層萌えていました。いや、今もなのですが。
夏の雨の中泥道を2人でお手手つないで走りぬけるサスナルも好きです!
それにしても番長といい、スーツといい、ぴ○ろさんはやってくれますね!なんなんだあの萌えなEDは…!