| オレはお前のものだ。けれど、逆も然りとはいえないだろ。
 そう言ったサスケの顔が苦々しそうに歪められていたから、ナルトは愁傷に伏せ目になって答える。
 
 だって火影は里の皆のものだ。
 
 サスケの喉から漏れでた、歪んだ音がナルトを撫でた。
 
 
 
 
 空想家の夢想
 
 
 
 「オレは、オレのものだと頷かないお前が大嫌いだ」
 
 言って、サスケはナルトを大きな寝室の寝床へと押し倒した。
 白い見目にも柔らかい布地の布団は、ナルトの蜂蜜色の髪と黒い服を映えさせる。この両方を覆っていた笠と羽織りは、今はリビングの隅にきちんとたとんで置いてある。
 それらのものが意味する重りも、脱ぎさった今は全て忘れて荷をおろせばいいものを、このサスケに押し倒されている男はそれすらしない。
 あくまで、プライベートでも自分は里のモノだと言い切るのだ。
 サスケはギリギリと力の入る奥歯から力を抜き、ナルトの胸倉を乱暴に引き寄せた。
 
 「……っこんなことなら、里に帰る時に条件をつけておくんだった!」
 
 目の前にある見馴れた顔に噛み付くように言うと、碧い瞳が緩く眇められる。
 
 「どんな?」
 
 からかうような響きすら含むその声に、サスケは苛々しながら、これまた乱暴に、そして器用に、ナルトの頭部を床につけることなく両手でその頬を包んだ。
 
 「お前が火影になる夢を、諦めるっていう条件だ」
 
 どうだ、と上から覗き込むようにして甘く囁く。
 ナルトが火影にならなければ、ナルトは里のモノではないはずだ。九尾のことがあるにしても、それなりに自由だ。プライベートの、それもこんな自宅の寝室で、自分は里の皆のモノだと言われることもない。
 サスケがナルトのどんな変化すらも見逃さないよう真剣に見据えると、ナルトは視線を逸らさずに笑った。
 
 「そんな夢も目標もないオレ、お前が一番見たくないくせに」
 
 苦虫を潰したような顔だったに違いない。ナルトがサスケの顔を見てケラケラと笑った。
 確かに火影になる、と言い張るナルトは煩わしい存在だったが、それとともに無視できない光りを放っていた。サスケはそんなナルトが嫌いじゃない。というかナルトと言えばそれで、それがなければナルトじゃないような気さえする。
 どちらにせよ、ナルトは火影になった。そして、当然火影になると言っていた少年はいなくなった。
 
 「じゃあオレが今のお前を気に食わないのはしょうがないだろ?」
 「む……お前は夢を叶えたオレにそんなことしか言えないのかよ」
 
 昔からの幼さを残す癖で尖った唇を見て、サスケは笑んだ。
 別に今のナルトが嫌いなわけじゃない。寧ろ募り募った愛情は昔の比ではないだろう。
 だが、過去が懐かしいのは事実で、あの短いが世界がたった4人の人間で構成されていた時代に、郷愁の念を覚える自分がいるのだ。その世界が短命だったのは自分のせいなので、随分身勝手なことを思っているのは承知の上で、今、幸福だからこそ思える戯言だ。
 
 「怒るなよ。じゃあこう言えばよかった。週に一日だけは、お前はオレだけのモノになること」
 「なんだってば、さっきからお前、人をモノみたいに扱ってさ」
 「オレはお前じゃねえ」
 「話しそらすな!……サスケだって、さっきオレをお前って言ったし。普段なんかウスラトンカチやらドベやら好き放題呼ぶじゃん!火影なのに面目丸潰れだってばよ」
 「愛称だからな」
 
 おまえだけだ、とコツンと額を合わせると、ナルトはくすぐったそうにバカサスケ、と笑った。
 そのまま二人でベッドに倒れ込んでひとしきり笑った後に、ナルトがなぁ、とサスケをよぶ。なんだと視線でかえせばナルトの海のように深い瞳が向けられた。
 
 「今だけ。あと、ここでだけ、な?」
 
 そう言って、お前のもんだよ、と腕を絡めてくるナルトの吐息が耳をくすぐる。好きにしてもいい、と力の抜けた身体が愛おしくて仕方がなかった。漸くかえってきた。そんな感じ。
 もちろんナルトを本当に物扱いしているわけではないが、サスケの心の余裕のなさがすぐにそう言わせてしまうのだ。
 里の子どもがナルトに纏わり付いている時も、里の若者が尊敬の眼差しをもってナルトを熱心に見つめといる時も、気が置けない同期が声をかけとくるるときでさえも、サスケは叫びたくて仕方がない。
 ナルトはオレのものだ、と。
 そんな馬鹿みたいな独占欲を本当にコイツはわかっているのだろうか。
 その馬鹿みたいなものを教えこむようにナルトの傷一つない肌に赤い痕をいくつものこしていく。
 ナルトの服はとっくに剥いでベッドの下にほうったので今は好きに肌を触れた。
 焦らすように愛撫していくと、熱い吐息にもどかしげな甘い声がまざるのが愛おしい。
 
 里を 一層のこと壊してやろうか
 
 ナルトが聞いたら怒り狂いそうなことを思い浮かべてサスケは口の端を歪めた。ただの空想の中の遊び。本気ではない。けれど酷く魅惑的な遊びだ。
 ナルトに憎しみの視線を向けられることは、悲しさや苦しさを超えて、きっと心地よいだろう。憎まれているうちは、ナルトの視線から気持ちまで、全て自分に向けられるはずだから。
 ふと、唇に柔らかい感触を感じサスケは我にかえる。少し不機嫌な濡れた瞳と視線が絡んだ。
 
 「サスケは今、誰のもんなんだってば?」
 
 そんな存外かわいらしいことを言われればこの行為に集中するしかなく、空想は霧散し、あとは没頭するのみ。先の言葉に笑ってお前のものだと答えると、はにかむようにナルトが笑うから、やはり今は幸せなのだと納得する。憎まれ、全てを自分に向けさせるよりは、幸せなのだと、納得する。
 
 
 
 ***
 暗い部屋で、月の光だけを頼りに獣のように求めあって、暴きあって、絶頂に達した。その達する時に、しがみつくようにナルトが抱きしめるから、ああ、やはりこの手は自分だけを求めればいいのに、と思い、霧散したはずの空想が還ってくる。
 
 やっぱり、この里、壊してやろうか?
 
 空想はその後のナルトのキスによってまたもや霧散され、サスケの中の獣は悔しそうに唸り声をあげた。
 
 当分、空想は空想でしかないようだ。
 
 
 
 
 07/09/13
 このナルトって誘い受け属性なんだろうか…
 いや、私はナルトは天然推薦派なので、このナルトはあくまで天然だと主張しておきます…!
 なにより無意識なナルトに振り回されて少し狂っちゃっているサスケが好みなんです(酷!)
 
 |