| 言葉という安定剤を
 
 
 「いや〜サスケ隊長って任務の最中色気すごいですよね〜」
 「へぇ〜。そうか??」
 
 生暖かいオレの視線を気にせず三つ下の後輩が言う。
 
 「そうですよ!男のオレですら抱かれてもいいとか思っちゃいますもの!」
 
 キャッ!言っちゃった!っとか行って語尾にハートでもつきそうな言い方に思わず溜息が漏れそうだ。
 
 アイツに抱かれたい?アホかってばよ?!アイツに抱かれたら次の日立てねぇんだぞ!!!しかもそれをいいことに調子にのって悪戯まで仕掛けてくるのだから質が悪い。
 いけない、いけない。どっかに行っている場合じゃない。会話に合わせねぇと。
 
 「そ、そういうものなのか?」
 
 やっと言葉を絞り出した口角がぴくぴくと引き攣る。笑顔、笑顔!!しっかりしろってば、オレ。
 
 「えぇ!みんな言ってますよ〜」
 
 みんな?!みんなってどいつらだってばよ、それ……
 
 「ふ〜ん……オレにはよくわかんねぇ」
 
 少しふて腐れ気味になるのはしょうがない。興味の無いふりはするけれど、正直気になる。だってそんなこと聞いたことない。一応サスケはオレのだし……ほんと、皆って誰だってばよ!!!
 
 「そうですか〜。あ、ちなみに先輩も抱きたい抱かれたい男5に含まれているんですけどね〜!ちなみにサスケ隊長は1です!!」
 「……へ?オ、オレも?」
 「えぇ、気をつけた方がいいですよ〜」
 「そんなのムリだってば。だってオレ、サスケのだし」
 
 にっこり笑顔で後輩が言ったのと、自分の口から言葉が滑り出たのは同時だった。
 
 「……っ!?」
 「………あ、やべ」
 
 顔を真っ赤にして瞳を驚愕に見開いている後輩を見て、ようやく自分の失態に気付く。
 
 「あ、あのな……このことは内密に…………」
 
 しどろもどろ言いながら青くなった顔を上げると、後輩の小さな背中が見えた。
 え……
 
 「隊長ーー!!!この話本当ですかーー!?」
 
 あ の ヤ ロ ウ。
 こんな時だけうまく気配消して動けるなんてナメてないか。
 後でおもいっきりシメてやるってばよ!!!
 
 と、その前に、話しを聞いて振り向いたサスケにギクリと身体が強張る。目が合った瞬間、サスケは意地悪気に口角を上げて笑いやがった。
 しかもオレに見せ付けるように後輩の耳に手をあて、何か吹き込んでいる。それを聞いた後輩はオレを一瞬チラリと見て口を動かしたと思ったら、そのまま赤くなってどこかへ行ってしまった。
 
 「ナルト」
 
 後輩の背中を唖然として見送っていたら、いつの間にかサスケに背後をとられていた。
 
 「なんだってばよ」
 
 背中から抱きしめるように回ってくる腕をはたき落とす。
 顔の熱が上がってカッカッと、音を立ててそうだ。読唇術なんて習わなければよかった。
 
 「ずいぶんと冷たい反応だな。さっきは可愛いこと言ってたんだろ?」
 
 サスケの唇が項をかすめる。
 
 「うるせぇ。可愛いことなんか言ってないってばよ」
 「ふぅん。でもお前はオレのものって言ってたんだろ?」
 
 嬉しかった。と、吐息と共に言葉が耳に吹き込まれる。それに反応してぞわっと腰が痺れる感覚が忌ま忌ましい。
 
 「どうせならお前の口からちゃんと聞きたいんだが」
 
 甘えるようにサスケが背中に体重をかけてくる。低体温のくせにこんな時だけひどく温かく、その存在を誇示しているようだ。
 
 「ならアイツになんて言ったか教えろってばよ……」
 
 やっとでた言葉は愛想もくそもない言い方だったけれど、最後の抵抗にしては可愛いものだ。
 再度まわってきた腕にもはや抵抗する気も失せて、逆に体重をかけてやろうと頭をのけ反らせる。
 紺碧の空が目に痛い。
 
 「なぁ?」
 
 いくら待っても返ってこない答えに、サスケが立ったまま寝てしまったのではと訝しって首を捻る。
 
 すると待ってましたと言わんばかりにサスケがオレの唇を掠め取り、不敵に笑った。
 
 「アイツが言ってた通りだよ」
 
 何て言ってたかわかっただろ、いつの間にか真っ正面から抱き合う形になったサスケが視線を合わせて言う。
 なんて言ってたか。
 後輩の口の動きを思いだしてまた体温が上がる。
 
 『愛されてますね。お幸せに!』
 
 「……っなんて言ったかなんてアイツ言ってなかったってばよ!!」
 
 赤くなっているであろう顔を少しでも隠すために俯く。
 
 「それでもお前はわかるだろ?」
 
 見なくともサスケが笑ったのが分かった。自分が言った言葉はわざわざ手で隠して教えないくせに、聞きたいことは言わそうとするんだから、ほんとムカツクやつだ。昔からサスケに感じるムカツキは変わらない。
 けど、オレはいつまでもドベで、ウスラトンカチのままじゃないんだぜ?なめてたら痛い目見るんだってばよ。
 
 
 余裕こいて笑っているであろう目の前の男をひっつかみ強引に顔を引き寄せる。
 唇が合うか合わないかのギリギリの位置。
 
 「言ってくれなきゃ、オレわかんねぇもん。おモテになるサスケさんと違って頭よくないんで」
 
 キスがしたいなら言葉を。
 我ながら自分に嫌気がさす。これじゃあ嫉妬したのがバレバレだ。
 
 「オレは言われなくても今お前が言いたいことがよくわかるよ」
 
 嫌味たっぷりのオレの言葉を理解したサスケが苦笑しながら顔を寄せると共に囁く。
 
 「オレはお前のものだ。ナルト。」
 
 優しく囁かれた声とは裏腹に噛み付くような熱いキス。
 軽い眩暈に襲われながらもやっとの思いで呼吸の合間に答えを返す。
 
 「オレ、も。お前のだからっ」
 
 
 どうせ、サスケはオレのなんたらの順位も自分の順位も知っていたのだろう。そしてオレと同じように聞いた当初は苛立ったにちがいない。
 けれど今回オレが先にふて腐れたからオレと同じようにふて腐れた思いを何も言わずにいてくれたんだ。
 それはサスケがそんな順位があることを知っててオレに黙っていたことへの罪悪感からくるものなのかもしれないが、黙って受け止めてくれたことが嬉しかった。
 
 お前も言葉にしなくちゃわからないだろ、サスケ。
 だからオレも声にだして言葉にしたんだ。
 けれど、オレ達はきっと言葉にしたところでその言葉を長くは信じられない。
 
 「「愛してる」」
 
 こうやって、呼吸の合間にでもなるべく言葉を伝えて、繋がりを確認しつづけないと。
 言葉だけが繋がり続ける術じゃないともちろんわかっているけれど、それでも言葉はすぐに手に入る安定剤なのだ。
 すぐに不安になる心をギリギリの線で言葉にして繋ぎとめ続けている。
 
 だから他のやつによそ見なんてするなよ、サスケ。
 そんな時間があるなら早くオレに言葉をくれ。
 
 
 
 06/11/06
 上忍。任務中の休憩時間。
 いいかげんバカップル話をやめて次はギャグにはしろうと思ったのに、結局途中からイチャイチャして終わりました。こなくそ!(何;)
 
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