| この熱に重なればいいと
 
 
 
 
 
 「なにオマエ、オレのこと好きだったりすんの?」
 自分の熱い唇にそっと指をあてたまま問うと、目の前のサスケの身体が一瞬ギクリと動いた。筋肉の筋が強張っているのが目に見えるほど明らかだ。
 
 「……だったら、……どう、なんだ?」
 
 いつもより歯切れの悪いサスケの言葉がじんわりと胸に浸透する。
 
 サスケの顔は、見えない。
 自分の顔も、見られていない、と思う。
 
 けれど、ギリギリ触れるか触れないかの肌から伝わる熱が、互いの気持ちを相手に教えてしまっているような錯覚を起こす。
 相手の熱を感じとれるほど、今のサスケと自分との距離は近かった。
 
 「どうって……サスケこそ、どう、なんだってばよ?」
 「どうって?」
 
 お互い、もう、何を考えているのかわからないんだ。と、ナルトは頭の端っこで思った。
 今はただサスケの肌が近くて熱い、ということが頭の中の大半を占めていた。
 まだ、先程感じたサスケの熱が唇に残っていて離れない。とにかくどうしようもなく熱い。
 
 ナルトは熱を持て余して、遠くの地面に落としていた目線をそっと、目の前の人物に移した。伏せ目がちに見ると、黒い襟からサスケの首が見えた。赤い。
 一瞬窓から射す夕日のせいかと思ったが、日はもう殆ど落ちている。
 気付いたそれと、漂う沈黙のせいで、更に自分の中の熱が増し、このままいくと溶けて気化してしまいそうだ。
 
 熱い、ホントに溶けそ……
 
 どうしようもなくて、逃げたいけれど離れたくもなくて、矛盾の中で目をつむってじっと息を押し殺すことしかできない。
 けれどこの熱に耐えられそうにないのはサスケも同じらしい。
 
 だって、サスケも凄く熱い…
 
 そして、結局耐えられずに先に行動を起こしたのはサスケだった。
 ナルトの肩に、サスケの頭がポスッ、と沈んだ。
 
 「……ぁ」
 
 小さく声が漏れる。
 二人のいるベットの軋む音が控え目に聞こえた。
 サスケのその行動に鼓動が一気に早くなり、ナルトは思わず自分のシャツの胸辺りを強く握りしめた。
 
 「その手、ジャマ」
 
 サスケの、低く、掠れた声が耳元で囁かれる。
 吐息を耳で感じて、背中から腰に何かが走った。
 頭の中で、赤と黄の光がチカチカ点滅する。
 
 何か、掴むもの……
 
 息苦しくてナルトは助けを請うように、サスケの背に手を伸ばした。
 それを合図に、サスケはギリギリで触れていなかった肌をゆっくりと合わせる。
 ナルトの身体の両脇に置かれていたサスケの腕がナルトの腰や頭にまわされ、二人の隙間が埋まった。
 
 
 サスケの体温が、臭いが、鼓動が、全ての感覚を支配する。
 
 
 この感情をなんと呼べばいいのか。胸が締め付けられ、瞳が滲む、この切ない感情を。
 息が止まりそうな、刹那的とも思える幸福感を。
 
 この感情の名前を、自分ではまだ出せない。
 サスケですら、答えてはくれていない。
 どちらが先に答えを言葉にするか。きっと、この沈黙が止んだら決着がつくのだろう。
 
 
 
 けれど熱だけは当分冷めそうには、ない。
 答えが、今なお唇に残る熱と重なればいい。
 
 
 それだけを思って、ナルトは目をつぶり、サスケの背にまわした腕に、ぎゅっと力をこめた。
 返されたのは自分以上に力の込められた抱擁。
 
 
 
 
 
 サスケの髪が頬を擦る。
 
 吐息が額にかかった。
 
 目を開けて。
 
 
 
 
 
 
 
 答えは……
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 06/09/20
 砂吐いていただけたでしょうか(笑)
 今回は初々しい下忍時代の甘い話を目指してみました。
 あの頃は二人とも幸せそうだったなぁ(遠い目)
 
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