やっと会えたのに
アイツはずっと他の奴の名前を呼ぶ
とうの呼ばれている奴は、お前を傷付けて離れていったというのに




焦がれ恋(コガレコイ)




暗い廊下を足音を消さずに歩き、ある部屋を目指す。
そこは今砂隠れの里を救ってくれた同盟国の忍び達が使用している部屋だ。
里長の恩人達を相部屋で泊まらせるわけにはいかないので、その忍び達に各自に一つずつ、部屋が宛てがわれた。
目的の部屋は一番端にあった。


部屋のドアをノックして、目的の人物の名前を呼ぶ。

「ナルト」

もう一度問い掛けても答えがないので、扉を少し開け、その隙間から体を滑り込ませた。
ベットに近寄るとあどけない表情でナルトが眠っている。

コイツ…忍びではなかったか??

思わず動きを止めて考え込んだあと、我愛羅はもう一度ベットへ目線をやった。
暗闇に慣れた眼は、ナルトの傷一つない肌を白く浮かび上がらせる。

よくある物語りのようにキスをしたら、鈍いコイツも起きるのだろうか

我愛羅はふと、過ぎった考えをそのまま実行してみることにした。
顔の横にでていたナルトの右手を自分の左手で押さえ、右手はナルトの頭部を囲うようについて唇を合わせる。
ぴくっと体が跳ねて、ゆっくりと碧い瞳があらわれた。
まだ状況把握ができていないのか、動かないままのナルトの唇を我愛羅は自分の唇で軽くはんでみた。
すると今度はすぐに相手の右腕が自分の胸を勢いよく押した。

「なっ?!へ??我愛羅?!?」

青い瞳が見開かれているのが、暗闇でもよく分かった。

「ようやく起きたか」
「い、今何をしたんだってば…??」

恐る恐る上目使いで見てくる表情を、つい可愛いと思ってしまう。

「唇って結構柔らかいものなんだな」

サラっとされた爆弾発言にナルトはその場で固まってしまった。


ナルトが違和感を覚えたのはその直後だった。
空気が微かに揺れたのだ。
視線をその揺らいだもとに集中させてみる。
目の前の人物が少し笑って見えるのは気のせいだろうか?
それだけではない。纏っている雰囲気が三年前とは比べものにならないほど柔らかいことを、改めて認識した。
何だか嬉しくなってナルトは笑った。

「お前が無事で良かったってば。我愛羅」

そんなナルトに我愛羅も微笑みかけた。

「オレは、またオマエに助けてもらったな」

オマエにはいつも助けてもらってばかりだ。借りが溜まっていく。そう、口惜しそうに笑いながら言った我愛羅に、ナルトは笑う。

「じゃあオレが火影になった時に返してもらうってばよ」
「なるほど。それならオレはオマエが火影になるまで風影としてここに在り続けよう」
「おぅ!」

ナルトは照れたように笑って、続けて何かを言おうとしたが、迷っているのか言葉にしない。

「どうかしたか?」

我愛羅が声をかけると、少し頬を紅色に染めたナルトが、また上目使いでこちらを見た。

「あ〜…えっと」

ナルトはまた暫く迷ったあと、口早に言った。

「我愛羅!今さらかもしんねぇけど、風影就任おめでとう!!」
そう言って、ニカッと笑った。


確かに今さらだ。食事の時だって顔を合わせていた。
…でも、他に誰もいない、二人だけの時に言われたことがなぜだか嬉しい。
この言葉は自分だけのものなのだ。

「ありがとう」

自然に笑みがこぼれる。こんなに一日に何時も微笑んだことが今まであっただろうか。

「夜遅くにすまなかった。今日はオマエと話せてよかった。ナルト」

そう言って、我愛羅は扉に手をかけた。

「オレもだってばよ」

嘘のない満面の笑みでナルトは答えた。

「そうか…じゃあおやすみ」
「おやすみ、我愛羅」


ナルトの笑顔を目にしっかり焼き付けて扉を閉める。
本当はナルトが眠るまで側に居たかった。
けれど、今はこれで充分だ。
自分だけのために発っせられた声は甘く、それを言ったナルトの表情もとろけるように甘かった。

気持ちの良い充足感が体中に広がっていて、今日はよく眠れそうな気がした。
実際は、よく眠ったら大変なことになるのだが。

まぁ、オレが眠ってしまってもアイツが起こしてくれるだろう。
もちろん甘いキスなどではなく、きっとゲンコツでめいいっぱい殴られるのだろうけれど。



扉の前でもう一度、小さく呟く。



「おやすみ」



その後に続く愛おしい名前は、そっと心の中でだけ。









06/06/07
管理人初のss。
第2部の、我愛羅奪還後の夜の話です。
けれど我愛羅ってもう暁にタヌキ(一尾)捕られちゃってるのかな〜(痛っ!)