小さな復讐



風呂上がりのナルトがシャツの裾を団扇代わりにして扇ぎながら、惜し気もなく腹を曝して目の前を通り過ぎ、ベッドに寝そべった。
サスケは、思わずくぎづけになった視線を引きはがして、巻物に無理矢理戻す。

上気したうなじだとか、綺麗に筋肉のついた腹だとか、白くて細い足首だとか、一瞬しか見ていないのにしっかり視界に痼ついてしまった残像にサスケは舌を打つ。
小さく深呼吸をし、気持ちを落ち着かせていざ巻物に意識を集中させようとしたその時、横から視線を感じてサスケは顔を上げた。

「……んだよ」

「べっつにぃ〜」

不機嫌を顔に書いたようなサスケの表情とは打って変わって、ナルトは上機嫌だ。

悪戯小僧はいまだに健在、とでもいうようにニヤーと意地の悪い顔でサスケを見て笑っている。

「そそる?」

直球で聞いてくるナルトにサスケは苛々しながら答えた。

「正直に答えたら、この間のこと取下げるのかよ?」

責めるようなサスケの言いように、ナルトは怯みもせず愉快そうに笑う。

「やだね!アレはお前の責任だろ?自分で言ったことにぐらい責任もてってばよー。サスケちゃん」

「あれはお前が原因だろ!!!」

「でも言い出しっぺはサスケだってば。」

びきっと音がなりそうなぐらいにサスケは眉間に皺を寄せて怒っているが、ナルトは全くお構いなしだ。


この間のこと、と言うのはつい三日前に起こった二人の言い合いである。
夕飯にナルトがカカシに貰ったという納豆を出したのが原因だ。
一応恩師から貰ったものなので、ナルトはちゃんといただこうと、夕食時に納豆を食べ出した。しかしその光景を見たサスケは暫く固まったあと、いきなりナルトを怒鳴りつけたのだった。
納豆はサスケの嫌いなものトップスリーに入る。
寧ろトップだと言っても過言ではない。

目の前でねっちゃら、ねっちゃらと嫌いなものを見せ付けられた上、またそれをナルトにプレゼントした上司の思惑と、その思惑に気づかずに喜んで食べているナルトに、サスケはついにキレた。キレて、そんなもの食うやつとはしばらくキスしねーなどと喚いて墓穴をほったのだ。
急にキレられたナルトも当然怒り、お前が食わないならこれ全部オレが食うし、その間はオレに触るな、という案にすらサスケは勢いで了承したのである。
納豆の数を知りもせずに。
納豆は全部で6パック。
ナルトが毎食食べるわけもなく、一日一パックの割合で消費されている。
現在3パックが消費された。残り3パック、三日分。

「そういやオレ三日後から他国任務が入るんだった」

ぽんっと拳を合わせてナルトが言う。

「ナルト……ッ!」

無常な恋人にサスケは恨めしげな目をむけると、笑顔で妥協案が返された。

「じゃあサスケ、お前が何パックか食べればオレが納豆食べる日減るじゃん」

「……!?」

「いい考えだと思うけどな〜。あ!そういや、オレ昔生野菜無理矢理食わされたよな〜。一楽のみそチャーシュー、野菜ラーメンにかえられたりしたよな〜」

「おまえ……」

天使のような悪魔の微笑みをもって、ナルトはサスケを黙殺した。

「……わかったよ」

サスケの完全なる敗北。

本日、ナルトの小さな復讐が成し遂げられた。




06/11/22