嘘か真か 1 


季節は春真っ盛り。辺りには桜の香りが広がり、ウグイスの美しい囀りが聞こえる。空は青く澄んで晴れ渡り、文句一つつけようのないよい日だ。
そんな気候に加えて、今日は自分にとって年に一度のビックイベントがある。

4月1日 エイプリルフール

それは一年に一度の嘘をついても許される日。
悪戯が大好きな自分がどうしてこの日にじっとしていられようか。
例え今日が残念なことに学校がなく祭日だとしても、春麗らかなこの日。外で探せばいくらでも自然と獲物が見つかるだろう。

「よっしゃー!今日一日、うずまきナルト頑張るってばよー!!」

ナルトはお気に入りのオレンジのパーカーに着替え、ぽかぽかと暖かい日なたに飛び出していった。




***
今日の自分はついている。
マンションから飛び出し、初めに見つけた人物を遠目から見て、ナルトはにんまりと笑った。
最初の獲物としてはレベルが高いけれど、今日1番出会いたかった相手がこちらに向かってにゆっくりと歩いてくるのだから逃す手はない。それに、今回は秘密兵器もある。距離は50メートルほど。高鳴る心臓をおさえてナルトはその人物の元へ駆け寄った。

「サスケ〜!!」

様々な色彩が溢れるなか、その人物、うちはサスケは、何物にも染まる気はない、とでもいうように黒い長袖の服を着ていた。
おかげで遠目からでもすぐにナルトはサスケを見付けることができたのだ。

「よお」

駆け寄ったナルトにサスケが愛想もへったくれもない返事で返す。

この普段から余り表情を変えない男をどう驚かせて、慌てふためかせるか、それをナルトはこの一ヶ月ずっと考えていたのだ。

サスケの驚く顔なんかほとんど見れねぇからな。今日はばっちり驚かせて、ついでに写真まで撮って、サクラちゃんに見せちゃお〜。きっとゲンメツするってばよ。

ぷぷっ、と漏れそうになる笑いを押さえ付けて、ナルトは辺りに人影がないことを確認してからサスケに話しかける。もちろん後ろ手にはケータイをばっちりスタンバイしている。

「あ、あのさ。ちょっと話したいことあんだけど……」

控えめに、ちょっと照れた感じで。このリアルな演技が今回の嘘には必要不可欠だ。ちゃんと引っ掛かってくれないと嘘にはならないのだから。
無言で次の言葉を促すサスケにナルトは勢いよく頭を下げた。

「ずっとサスケのことが好きでした。付き合ってください!!」

思わずふき出してしまいそうになるのを我慢して、暫くその状態で静止する。
それから表情を整えて、ゆっくり顔を上げた。なるべく真摯に、あくまで本気という雰囲気を作って。ケータイはもう少し様子をみてから。

サスケのやつどんな顔してっかな……

わくわくする気持ちを抑えながらナルトがサスケの方を見ると、そこにはいつもと変わらぬ涼し気な顔をしたサスケがいた。

あれ?

聞こえなかったのだろうかと、ナルトが再び口を開こうとすると、サスケの方が先に口を開いた。

「別にいいぜ」

表情一つ動かさず、天気の話しをするようサスケがさらりとそんなことを言う。

え、へぇ?……って、ぇえええ!!!

思っていたものと違うサスケの反応にナルトの動きは固まる。

おかしい。おかしいってば。オレの予想でいくと、ここは変に堅いサスケが『お前考えなおせ!!今ならまだ遅くねぇ!』ってめちゃくちゃ焦るか、『はぁ?てめぇ何言ってんだよ』っとか言ってキレられるか、それともあぁ〜、うん〜。だからこんな反応じゃなくって……

別にいいぜ、と言ったサスケの表情は読み取りにくく、ナルトはまじまじとサスケの顔を見る。これは、自分の嘘に気付いたサスケが何か仕返しを企んで話しを合わせているだけなのか、はたまた他に何か別の理由があるのか。流石にサスケが本気で信じた上でこの反応をしているとは思いたくない。
まったくサスケの考えが読み取れず、ナルトは眉間に皺を深く刻んだ。

「どうしたウスラトンカチ。行くぞ」
「だからオレはウスラトンカチなんかじゃねぇ!!」

そういつもの習慣で、反射的に言い返したが、気持ちはいっこうに落ち着かない。
そんなナルトの心を知ってか知らずか、サスケは表情を少しも変えることなくナ
ルトに背を向けて先にマンションに入ってしまった。




07/04/20 07/06/25修正
現代パラレル。エイプリルフール話。